ユニクロのセルフレジ特許権侵害訴訟を現状整理する 知財高裁で勝っても戦況が明るくない理由

2 週間前

 特許を巡る大企業とベンチャーの争いで、最近注目なのが、ユニクロのセルフレジに関するものだ。使いやすいと評判だったが、その特許を巡って激しい争いが起きている。テクノロジー知財に詳しい弁理士の栗原潔さんに解説してもらった。


 ユニクロのセルフレジで採用されているRFID読取装置に関して、RFIDソリューション開発企業のアスタリスクと「ユニクロ」や「ジーユー」などを展開するファーストリテイリングとが特許権侵害訴訟が争っていることが話題になっている。

 従業員約100人の小規模企業が、カジュアル衣料品販売業として時価総額世界第1位の超大規模企業を訴えるという、今までにまったくなかったわけではないものの、注目に値する訴訟である。

 アスタリスクのニュースリリースをベースにこのケースの全体像を見ていこう。なお、アスタリスクは、訴訟経過中に自社の全特許権をNIPという知財ライセンス企業に譲渡している。おそらく、実業にフォーカスするための措置と思われるが、依然としてニュースリリースはアスタリスクから発信されており、重要な当事者である点は変わらないので、以下では、NIPも含めて「アスタリスク」と総称する。

 2019年9月24日、アスタリスクは東京地方裁判所にファーストリテイリング側の特許6469758号等の侵害に基づく差止仮処分の申立を行った。ライセンス契約が不調に終わったためである。

 このケースにおける詳細な事実関係は不明であるが、一般に、テクノロジー業界では、大企業に技術の売り込みを行ったスタートアップ企業が、大企業に技術を盗用されてしまう(と疑われてもしょうがない)ケースが散見される。一方で、大企業側も売り込まれた技術と類似の技術を既に社内開発していたケースもあるだろう。

 このような場合に一応のケリを付けられるのが特許制度だ。先願主義により、誰が先に発明したかにかかわらず、先に特許庁に出願した方が優先されるからだ。アスタリスクは賢明にもファーストリテイリングへの技術開示の前に特許出願し、権利化を行っていたことで、特許権侵害訴訟という勝負の場に出ることができた。

 一般的アドバイスとして、技術系スタートアップ企業が、他企業に対して自社技術の売り込みを行う際には、その前に特許出願を行っておくことが極めて重要だ。

「言われてみれば自明だが誰もやっていなかった」のは強力な特許の証

 特許6469758号とはどのような特許だろうか? 基本的アイデアは驚くほどシンプルだ。RFIDタグ読取装置に形成されたシールドを桶状に配置することで、電磁波の外部への放射を低減しつつ、タグの正確な読み取りを実現するという発明である。

photo RFIDセルフレジ

 ネット上では「当たり前のアイデアではないか」との批判も聞かれたが、それは後付け分析であり、「シンプルで、言われてみれば自明だが誰もやっていなかった」のは強力な特許の証である。

 この特許には、2019年5月22日にファーストリテイリングから無効審判が請求されている(これ以外にもアスタリスクの同業他社と思われる企業から異議申立が請求されているが説明は割愛する)。特許権侵害訴訟における被告の対抗措置としては侵害を否認することに加えて、そもそも特許が無効であることを主張する抗弁がある。

 この無効審判は、侵害訴訟の提起前に請求されているが、侵害訴訟が提起されることを見越してということだったのであろう。一般に、無効審判の請求人は新たな証拠により特許が新規性・進歩性を欠くことが主張される。無効審判の結果が確定するまでは侵害訴訟の方は中止されることが通常である。

 この無効審判の審決が2020年8月6日に出されている。請求項(クレーム)1,2,4は無効であるが3は有効というものだ。クレーム3は限定されてはいるが広範囲の特許だ。両社ともこの審決を不服とし、知財高裁に審決取消訴訟を提起したが、その審決取消訴訟の判決が先日の2021年5月20日に出された。その結果は、クレーム1から4の全てが有効であるというものだ(正確に言うと、審決の取消により特許庁での審判が再開し、特許庁において最終結論が出されることになる)。

 これに対して、ファーストリテイリング側は、2021年6月2日、最高裁に上告を行った。従って、この審決はまだしばらくは確定せず、侵害訴訟の中止状態が続くものと思われる。

 一般に、特許侵害訴訟の上告審で結論が覆されることはさほど多くないので、アスタリスクにとっては大勝利のように思えるが、ことはそう単純ではない。

photo ジーユー向けに東芝テックが開発したRFIDセルフレジ

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